ビリー・ストリングス
本名:ウィリアム・リー・アポストル
1992年10月3日生れ
ミシガン州出身今回のギターヒーローはブルーグラスの麒麟児「ビリー・ストリングス」です。
【画像引用元:https://www.detroitnews.com/picture-gallery/media/photo/2023/06/17/billy-strings-plays-pine-knob/12123240002/】
牧場の草「Bluegrass」が由来のアイリッシュ系カントリーミュージック「ブルーグラス」。
歴史ある伝承音楽に突如として現れ、麒麟児と呼ばれたビリー・ストリングス。
ハニカミ笑顔が爽やかと思いきや、両腕にがっつりタトゥー。シャウトしながら暴れまくるメタル系のアーティストと思いきや。激渋な歌声に卓越したギターテクニックを持つブルーグラスの天才なのです。
【画像引用元:https://www.premierguitar.com/artists/billy-strings-the-long-road-home】
アメリカンドリーム
ビリーは若くして波乱万丈な人生を送っており、生みの父親はビリーが2歳の時にヘロインの過剰摂取で亡くっています。その後母親はアマチュアのブルーグラスミュージシャンと再婚します。それをきっかけに、ビリーは幼い頃からブルーグラスを聴きはじめます。
※幼い頃のビリーとブルーグラスアーティストの父親テリー・バーバー
ブルーグラスで使用される楽器にも興味を持ち、ギター、バンジョー、マンドリンなどを覚え始めます。そんな矢先、ビリーが13歳の頃に両親がメタンフェタミン中毒になります。売れないアーティストの父親、家計の苦しい家庭を支える母親のストレスの矛先は薬物や酒に向けられ、その状況から家を出たビリーも不安とストレスからハードドラックの餌食になりました。
その後、周囲の手助けや、リハビリ施設のおかげでビリー一家は薬物とアルコールの摂取をやめることに成功しました。荒れた環境ながらもビリーは義父のことを父親、そしてブルーグラスの師としています。
高校に進学したビリーは、ブルーグラスと同様に好んでいたロックや、メタルのバンドを結成し、リードギターとして活動し始めました。プログレッシブロックバンドにのめり込みアコースティックギターを何年も触っていませんでしたが、ある夜のハウスパーティーで何気なく手に取ったアコースティックギターでドク・ワトソンの「Black Mountain Rag」を演奏しました。演奏が終わると周囲は静まり返り、皆がビリーを見つめていました。
※盲目のギタリスト、ドク・ワトソンはブルーグラスの第一人者とも言われています。
その時、ビリーは改めてブルーグラスの魅力に気付かされたそうです。
それから、いくつかのロックバンドを経験しつつ20代の頃からは本格的にブルーグラスアーティストとして活動を始めていきます。
ビリー・ストリングスという名は「カントリー楽器をいくつも演奏できるから」ということから叔母が名付けたそうです。
ライブハウスやイベント会場で、圧倒的な演奏力とパフォーマンスで一気に注目を集めると2017年にTurmoil&Tinfoilでデビュー。ローリングストーン誌の数々のランキングに名を残し、ブルーグラス界では数々の賞を受賞します。2019年にリリースしたアルバム「Home」はグラミー賞を受賞しました。
ビリーの楽曲はブルーグラスの伝統的な構造を残しつつ革新的な要素をいくつも取り入れ、
一声にブルーグラスとは言えないほどの多様性を持った楽曲になっています。
「古くて、おじいちゃんたちが聴くようなカントリーミュージックなんて…」といった若者もビリー・ストリングスの新しいブルーグラスに魅了されています。
2023年までにはグラミー賞を3回受賞。ビルボードエマージングアーティスト初登場11位、ワールドオブ最優秀ギタリストにも選出されています。
【画像引用元:https://www.rollingstone.com/music/music-country/billy-strings-lord-of-the-rings-halloween-tour-dates-1234622145/】
ブルーグラスとカントリー
ギター、バンジョー、フィドル、このストリングス楽器が3つ揃うとストリングスバンドと呼ばれカントリーミュージックの生まれとなっています。そして、フィドルの旋律を歌に変えてコーラスなどを加えたものが「ヒルビリー音楽」カントリーミュージックとされています。世界的歌姫テイラー・スイフトもカントリー歌手でしたね。
そして、カントリーミュージックにもっと価値をつけたい、ステージ映えしたいとのことから、技巧的な演奏力に、スイッチソロパート、派手な衣装などの演出を加えたのがブルーグラスになります。有名な曲では「フォギー・マウンテン・ブレイクダウン」があります。
【画像引用元:https://www.discogs.com/ja/release/5294382-Lester-Flatt-Foggy-Mountain-Breakdown】
ブルーグラスのレジェンドたちの演奏は圧巻です。
ビリーはブルーグラスだけではなく、カントリー、アメリカンフォークといったジャンルにも精通しており、ボブ・ディラン、ニール・ヤング、リチャード・トンプソンなどの影響も大きく、渋いビリーの歌声や、哀愁ある独特な歌い回しはアメリカンフォークを彷彿させます。
【画像引用元:https://www.rollingstone.com/music/music-country/billy-strings-streaming-tour-1012102/】
ギター奏法の最高位
古い音楽のギターなんか…と思っていると大間違い!ブルーグラス、カントリーのギター演奏は凄く難易度が高いのです。伴奏としてのスリーフィンガーやツーフィンガー、リードプレイではフラットピッキングによる高速フレーズ。音を歪ませたりしないためごまかしの効かないマシンガンフルピッキングはイングウェイ・Mよりも高速かもしれません。
【画像引用元:https://walkingthefloor.com/episode-176-billy-strings/】
ビリーはそんなプレイを軽々とこなし、ステージ上では圧倒的なパフォーマンスを披露しています。アコギでスウィープなんて凄すぎます....。
現在ビリーが使用しているギターは、ブルーグラス界を中心に注目されている実力派のルシアーギターのPRESTON THOMPSON GUITARSがメインとなっています。
【画像引用元:https://eddiesguitars.com】
Martinをベースとして制作されておりD-28ドレットノートスタイルとなっています。スプルーストップ、ローズウッドバック&サイド、マホガニーネック、エボニー指板と豪華な作りで繊細なサウンドと思いきや、バンジョー、フィルドに負けない音量でストリングスバンドには欠かせない低音のレスポンスも備えています。中音は明るくフラットピッキングの音をハッキリとした輪郭で表現してくれます。高音は嫌味なギラつきはなくボーカルとの相性もいいそうです。
エフェクターはアコギアーティストには珍しく多くのエフェクターを使用しています。歪ませるだけではなく、ディレイを使用した効果音的なサウンドや、ワウを使用したフレーズなどアコギとは思えないような使い方をしています。
コンパクトエフェクターがズラリと並ぶビリーの足元。
現在エフェクターはラックに収納されRJM製のスイッチャーMASTERMIND GT/22でコントロールされているようです。ペダル類はアーニーボール、ミッションエンジニアリング制のエクスプレッションペダルが各2台設置されています。
※ラックにはプロファイリングアンプKEMPERの姿が見られるが、稀に演奏するエレキギターの場合に使用されると思われる。
ギターのピックアップにはピエゾピックアップとマグネットタイプのピックアップを追加し、マグネットタイプのピックアップを利用してエレキギターに近いサウンドを再現しています。多くのエフェクターはマグネットピックアップ使用時に活用されているようです。ボディにあるトグルスイッチは恐らくピエゾとマグネットの切り替えスイッチと思われます。また、ギターによってはさらにマイクタイプのピックアップを備えています。
アコギにディストーションなどをかけるとハウリングを起こしやすくなるため、ビリーは何度も試行錯誤しながらピックアップの研究を行っています。
ロックやメタル好きなこともあり、ブルーグラスだけにとどまりたくないビリーの音楽のレンジの広さが感じられます。
【画像引用元:https://www.premierguitar.com/videos/rig-rundowns/billy-strings-2023】
批判覚悟で大胆にも超豪華なMartin D-45customにも増設しています。Martin社のギターは繊細でアルペジオなどが向いていると思われている人も多いですが、実はカントリーギターでの愛用者が多いんです。
そしてビリーが最も信頼しているプリアンプはGRACE DESIGNのBixです。アコースティック高品質楽器専用のプリアンプでスタジオクオリティのサウンドを実現しています。ブースト/ミュート機能に加え、センド&リターン、DI出力も備わったライブでは欠かせないプリアンプです。
常に最高のサウンドを探求しているようで、頻繁にピックアップや、エフェクターの入れ替えが行われています。
温故知新
「ブルーグラスの未来」と称されたビリーは常にタイムワープを繰り返しているかのような音楽性を持っています。スリーフィンガーにのせたアメリカンフォークを哀愁たっぷりに歌ってるかと思うと、歪ませたアコギをガンガンに鳴らすロックサウンドで暴れまわったり、サイケデリックに揺れたりと様々な時代のアメリカンミュージックを楽しんでいます。「古きを聴き新しきを奏でる」音楽の歴史をしっかりと積み重ねてくれるビリーの楽曲はいつの時代でも楽しめることができるでしょう。2022年に発売されたスタジオアルバム「Me/And/Dad」では夢だった父親とのコラボを果たし、父から子へ受け継がれる音楽を見事に完成させています。
31歳にしてアメリカンミュージックの真髄に触れたビリー。近年はストリングスバンドに加えシンセやタブラなども取り入れ増々音楽の幅を広げていきます。ジャンルにこだわらずただ「音楽」を愛していると思わせてくれるこれからのビリーの楽曲が楽しみです。
【画像引用元:https://liveforlivemusic.com/news/billy-strings-the-anthem-11-13-21/】