伝説のギター・ヒーロー【ジョン・ペトルーシ編】

エレキギターが産声を上げておよそ90年、ジャンルやプレイスタイルは違えど、ヒーローと呼ばれるギタリストはこれまでに数えきれないほど誕生し、日夜我々を熱狂させています。
そんなヒーローの中でもレジェンドと称されるのは一握り、惜しくもこの世を去った者も少なくありません。
そして今、レジェンドへ名を連ねようとしているギタリストが一人。

今回はDream Theater(以下DT)のギタリスト、ジョン・ペトルーシについて深く堀りさげていきましょう。

※正しくは「ペトルッチ」と発音するそうですが、当記事では広く浸透している「ペトルーシ」表記で統一いたします。

〇音楽好きの少年が求道者となるまで

ジョン・ペトルーシ(John Peter Petrucci)

出身:ニューヨーク州ロングアイランド
1967年7月12日生まれ

この手のアーティストにありがちな音楽一家の出身ではないペトルーシ、弟や姉に倣いアコースティックギターを手にするもなんと挫折、今の彼を知る人からすれば信じられないエピソードですね。
しかし12歳のころ、地元で開催された音楽イベントを見てギターへの興味が再熱、弾けば弾くほど上達する楽しみを感じ取り、練習の鬼として知られる彼はこのころから形成されていきました。
遊び盛りの幼少期、夏休みを前にして友人たちに「1日に10~12時間ギターの練習するから遊べへんよ!」と返した逸話も、それにしたってやり過ぎでは…

同時期に創設メンバーであるケヴィン・ムーア(Key)ジョン・マイアング(Ba)と出会い本格的な作曲を開始、やがてマイアングと共に名門バークリー音楽大学に入学し、
そこでマイク・ポートノイ(Dr.)と出会い意気投合します。
ケヴィンと合流し、後に「プログレッシブ・メタル」というジャンルを確立し、世界を揺るがすDTの本格的な土台がここで完成しました。
バンドについてのお話はマジで紆余曲折ありまくりなので別の記事で解説していきますが、ここから彼の長きにわたるキャリアが始まります。
1989年のデビューアルバム「When Dream and Day Unite」以降、あまりにも卓越した技術とエモーショナルすぎる泣きのギターはギター界に多大な衝撃と影響を与え、プログレッシブ・メタル界のみならず、多くの若手や大御所からも支持を集める求道者として歩み続けています。


大人気You Tuberであるオーラ・エングルンド氏のチャンネルより、ペトルーシ主催のクリニック「John Petrucci Guitar Universe」の体験レポート動画
技術指導や理論について触れたりQ&Aコーナーもあり、ゲストを招いたセッションまで、こうして後進育成にも熱心に取り組んでいるようです。

練習へのストイックさや高い技術、シリアスな作詞テーマから気難しい人物のような印象を受けますが、実際にはかなり気さくで茶目っ気に溢れる人物。
YouTuberの動画にゲスト出演したり楽曲にギターソロを提供したりと、柔軟で軽いフットワークの持ち主であることがうかがえます。

〇先人への深いリスペクト、技術と表現への飽くなき探求

DTの作品やライブではカバーやオマージュが多く、それらが単なる「焼き直し」で終わらないのは彼の探求心と先人へのリスペクトの深さを物語っており、ジャンルを超えて貪欲に吸収し続けた努力の賜物だと断言できるでしょう。
同世代のギタリストの例に漏れず、The WhoやLed Zeppelin、Iron Maidenといったオールドスクールなロックやメタルから影響を受け、自身やバンドのスタイルとして昇華していくこととなります。
King CrimsonやPink Floyd、Genesisといったプログレッシブロックからの影響も見受けられます、中でもカナダのプログレッシブロックトリオ「Rush」の存在はペトルーシだけではなく、DTのメンバーの多くがその影響を公言しています。

DTメンバーだけではなく多くのアーティストが影響を公言しているRush。
複雑な楽曲構成とテクニカルな技術に程よいポップさが交わった名トリオ。

プレイスタイルの特徴は、凄まじいまでのピッキングスピードと指板上を縦横無尽に駆け回る圧巻のテクニックと正確さ。
スウィープやタッピングも超一流、いわゆる「テクニカル系」のギタリストとしての基盤を作り上げたといっても過言ではありません。
中でも特筆すべきは、なんといっても当代随一のオルタネイトピッキングの精度の高さ、敬愛するスティーヴ・モーズ譲りであり、「ペトルーシといえばオルタネイト!」とイメージする方も多いでしょう。
弦飛びフレーズだろうが非現実的なスピードだろうがお構いなし、驚くほど滑らかで流れるようにフレーズを繋いでいくピッキング技術は見ていて恐ろしくなります。
デビュー当初はあまりに正確無比すぎて「機械的すぎる」「無感情だ」と否定的な意見も見られましたが、世界的な成功を収めた2ndアルバム「Images & Words」ではデヴィッド・ギルモアばりの感情大爆発な泣きのギターソロも習得。
上記の圧倒的な技術と並び、ペトルーシのトレードマークとして広く知れ渡ることとなります。

3rdアルバム以降では7弦ギターも駆使し、チューニングを下げたモダン・ヘヴィネス方面へのアプローチも開始。
巨匠スティーブ・ヴァイやKORNと並び、7弦ギターの普及に貢献した一人といえるでしょう。

重苦しくスピーディなイントロが2ndアルバムの煌びやかさとは違う表情を見せる「Lie」、当時の流行であったリフ主体でありながらも流麗なソロが飛び出す一曲。
当時はまだ7弦のシグネイチャーモデルが存在せず、スティーヴ・ヴァイのUV7が握られています。

DTでもソロでもリズムパターンが入り乱れる楽曲が多く、10分どころか20分を超える長尺曲も手掛けるペトルーシ。
中には約6分間に100回以上拍子が変わる、ギャグとしか思えないような楽曲も存在します。
それらを数曲をライブで完全再現してしまう記憶力にも脱帽です。

ドラマチックな展開と圧倒的な曲構成から根強い人気を誇る20分超の代表曲「A Change of Seasons」
7弦の開放を駆使したイントロは重さよりも奥行きを表現しているように感じます。

こうして多くのスタイルやアーティストからの影響を自身の強みに変え作品へと昇華するペトルーシのスタンスは、デビュー40年を過ぎた今でも変わらず、慢心することなく進化を続けています。

楽器とは別にフィジカル面でのトレーニングも推奨しているペトルーシ、デビュー当初は甘いマスクで俳優のようないで立ちでしたが、2009年ごろから急に髭マッチョ化。
真面目な話ツアー中の体調維持やリフレッシュなどを兼ねて取り組んだ結果デカくなってしまったようです、そう言えば過去の教則ビデオでは何よりも先にストレッチを心掛けるよう忠告していましたね、この辺りは筋金入りのようです。

髭については後に自身モデルのケアオイルを発売するまで髭にもこだわり始める始末、今ではめちゃくちゃ美味しいバーベキュー焼いてくれそうなおじさんに大変身、ギタリストなんですよね!?

2019年作Distance over Timeより「Untethered Angel」のMV、間奏部で本当にBBQを焼き始めるペトルーシが見れます、なんで?

2020年のYG誌より読者からの質問に気さくに答えてくれるペトルーシ、奏法だけでなくマインド面でも重要なことが語られています。

〇静と動の二面性を極めたギタープレイ

ギタープレイについてもう少し深堀りしてましょう。
先ほど触れた通り、キャリアの初期からあらゆるテクニックが突出したテクニカルギタリストの先駆者ともいえるペトルーシ、耳を疑うようなスピードと同時に聞き手の琴線に触れる美しいメロディとトーンコントロールを極めた正に万能型といえるでしょう。
影響を公言しているスティーヴ・モーズ譲りのオルタネイトピッキングは驚異の精度とスピードを誇り、ただ速いだけではなく粒立ちの良さも一級品。
それスウィープで弾いたほうが楽じゃない?と思うようなフレーズでもオルタネイトでゴリ押しする事も、ストロングスタイル過ぎる。

バークリー出身という事もあり音楽理論にも強いこのマッチョ、王道のペンタトニックはもちろん、ドリアンやフリジアンなど駆使して楽曲に彩りを添えていきます、理論派なのか脳筋なのかどっちなんだい。
またペトルーシのもう一つのトレードマークとして、クロマチックスケールとシーケンスフレーズの多用が挙げられますね。
ソロセクションでは隙あらば超スピードのオルタネイトとクロマチックをぶち込んできます、ここに変拍子と他のテクニックが紛れ込んでくるからもう手が付けられません。
そんな大忙しなフレーズでもカチッと合わせてしまう精密さは、想像を絶する練習量に裏付けられた揺るぎようのない実力が可能にしているのでしょう。
テクニックと表現の両方を極めた彼は、ギタリストとしての基準レベルを一人で数段階押し上げた存在であると断言できます。

少し長い動画ですが、リック・ビアート氏のYouTubeチャンネルより、ジョン・ペトルーシとAnimals as Leadersのトシン・アバシ、そしてデヴィン・タウンセンドのド変態三人組による対談。
それぞれの作曲プロセスや音楽そのものへの解釈、さらにはテクニック紹介など必見の90分!

Tの数ある難曲の中でもトップクラスの難易度を誇る「In The Name of God」、オルタネイト、レガート、スウィープ、スキッピング全部入りの地獄へようこそ

ペトルーシの「泣き」が十二分に堪能できる名バラード、トーンや間の置き方はデヴィッド・ギルモアを彷彿とさせます、我慢できずにとんでもない音数をカマしてくるあたりさすがです。

〇超絶技巧を支える機材たち

ここからは機材について触れていきましょう。
とはいうものの数が多いので代表的なものだけに絞ります。何せiPh〇neと同じくほぼ年一で新モデルを発表していますからね。
新モデルといえどカラバリが増える程度ですが、それでも熱心なファンは「待ってました!」と鼻息を荒くするわけです。

キャリアのごく初期ではB.C RichやAria Pro II、Ibanez等を使用しており、2ndアルバムのレコーディングと前後してIbanezとエンドース契約を結びます。
お馴染みRGを基に特徴的なグラフィックが施された通称「ピカソ」は強烈なインパクトを残し、未だペトルーシといえばピカソをイメージする方も少なくないと思います。

初期の名曲として名高い「Another Day」は全体を通して美しい歌メロに加え、ツボを押さえた劇的なソロが感動的な一曲。
若き日のペトルーシの手にはピカソの2号機が!

またまたオーラ・エングルンド氏のチャンネルより、1999年のギタークリニック映像。
ピカソを手にDTとサイドプロジェクト「Liquid Tension Experiment」の楽曲を披露していますね。

当時のアーティストモデルとしては比較的オーソドックスな仕様ですが、セレクターのトグル・スイッチやPUのダイレクトマウントなど、後のモデルにまで引き継がれる拘りが細かな部分で見受けられます。
PUは現在に至るまで一貫してDiMarzioを採用、開発者のスティーヴ・ブルチャーと意見交換を重ね様々なモデルを試した結果、ピカソには「Air Norton」と「Steve's Special」が搭載され市販化まで至りました。
後に触れますが愛用のMesa/Boogieとの相性を熟慮し、つぶれ過ぎないどっしりした低域とタイトな中域が見事にマッチ、艶やかで厚みのあるサウンドはキッズの憧れに。
その後7弦モデルの開発、発売など時代の流れに沿ったモデルも展開しましたが、1999年に契約が満了。

次なるパートナーとして白羽の矢が立ったのは皆さんご存知、Ernie Ball Music Man
2000年のツアーにて同社の「Silhouette」と、同じくEBファミリーである巨匠、スティーブ・ルカサーの「LUKE」を基にしたプロトタイプ数本をお披露目し、「JPシリーズ」として後に製品化。
このモデルの特徴といえばやはりブリッジ部分に搭載されたピエゾピックアップ、超ざっくり説明すると2系統出力にして専用セレクターでアコースティックサウンドも出せちゃうよ!という画期的なシステム。
これによりエレキからアコギへの切り替えがスムーズになり、ライブにおける演出や再現度がより向上、マグネティックとのミックスも可能で唯一無二のサウンドが特徴ですね。

他にもかなり深く抉られたエルボーコンターや、見る角度によって色が変わる「Mystic Dream」フィニッシュも印象的でしたね。
このJP6と7弦仕様のJP7は惜しくも生産完了してしまいましたが、ファンからの根強い要望があり一時復活するほどの人気っぷり、モダンメタルというジャンルに於いて「とりあえずJP使っとこ!」という風潮がありましたね。

その後は上記の通りほぼ年一周期で新モデルを発表、途中搭載PUのモデルチェンジやボディのリシェイプ等がありましたが、基本的なスペックがほぼ変わらず、ある意味初期段階から完成されていたギターともいえるでしょう。
現在はJP15に落ち着き、今なおEBの人気モデルとして君臨しています。

EB社のチャンネルより、JP6について熱弁するペトルーシ

同社の最高級ラインBFRシリーズにおいてもシグネイチャーモデルを展開、ボディ材はバスウッドからアルダーとマホガニーを採用し、トップにはキルトやバックアイバールなどゴージャスなルックスへ。

BFR JPシリーズの最新作、もはや芸術品ですね

そんなJPの後継機として2014年に登場したのが現在のメインである「Majesty」シリーズ。
仕様は派手でしたがルックス的にはシャープだったJPと比較すると大胆な路線変更ですね、レーシングカーにインスパイアされたデザインだそうです。

JPシリーズとの決定的な違いとしてマホガニーネックの採用とスルーネック構造が挙げられます。
ボディ中央には盾のようなメイプル材が挟み込まれており、近未来的なデザインが男心をくすぐりますね。
ホーン部分のデザインも相まってハイポジションの演奏性が劇的に向上、薄く仕上げられたネック形状により速弾きがしやすくなりました。
他にもJPシリーズの後期モデルに搭載された+20dBの内蔵ブースターに加え、ピエゾピックアップももちろん採用。
2系統あったピエゾとの出力は1つにまとめられ、Vol/Toneノブで切り替えが可能に、よりステージでの使用に基づいた実戦仕様へと調整されています。
驚異的なボディバランスにより長時間の演奏もノンストレス、いよいよ非の打ちどころが無くなってきたな。

発売当初のMajesいて語るペトルーシ、今ではすっかり見慣れましたが当初は衝撃的でした。

JP同様2014年の発表以来様々なモデルを展開しており、PUとボディトップの塗装を変更し、ボディバックにはマホガニーを採用した「Monarchy」や、高級感あふれるマットフィニッシュの「Artisan」、
そして2022年には待望の8弦モデルが発表され、もはやすべての需要に応える形に。

2021年作の「A View from the Top of the World」より使用し始めたMajesty 8

Majestyは過去10年間でPUは4モデル更新されており、現在は「Dreamcatcher/Rainmaker」に落ち着いています。
リッチで耳障りの良い厚みのあるサウンドはモダンメタルのお手本として多くの人を魅了しています。

アンプについて、デビュー時は改造マーシャルを使用していましたが、2ndアルバム以降は一貫してMesa/Boogieを愛用、中でも80年の名機であるMrakII C+を溺愛しており聞いてもいないのに語り出すこともしばしば。
そんなMrakII C+を自身のシグネイチャーモデルとして現代によみがえらせる徹底ぶり、2つのグライコにリバーブユニット、さらにはMIDI制御も可能と何でもあり、詰め込み過ぎ。
3ch仕様で多くの人がイメージするメサブギーサウンドが詰め込まれており、うっとりするようなクリーンも爆発的なハイゲインサウンドも1台で網羅、60/100W切替スイッチももちろん採用。
DimarZioピックアップとの組み合わせにより極上のサウンドが出力されるというわけですね。

自身のシグネイチャーアンプを熱く語るペトルーシ、6弦と7弦の両方でデモ演奏してくれています。

エフェクト類についてはBOSSやMXR、Jim Dunlopの定番からtc electronicの名ディレイ2290とシグネイチャーモデルのモジュレーションペダルを長らく愛用。
そして忘れてはいけないのがFractal Audio Axe-Fx III、前モデルから長らくスタメン入りし続けているもはやいくつあるのか分からない「ペトルーシといえば!」な機材です。
Axe-Fxのアンプモデリングは使用せずエフェクト専用で組み込んでいるようですね。

恐らく現時点で確認できるペトルーシの最新ライブ機材。
ファンにはおなじみのギターテック、マッディ氏の解説付き。

2026年にはDTとしての来日も控えているので、これを機に彼らの音楽に触れてみてはいかがでしょうか。

最新作Parasomniaから2曲に加え、バリトン・ギターをフィーチャーした「Panic Attack」のスタジオセッション、テクニックは当然ながらソロの構成力の高さに驚かされます。

 

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